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「一人行政書士法人」が解禁!個人の行政書士事務所が一人で法人化するメリット・デメリット

最終記事更新日:2024年1月19日(金)

行政書士法改正により「一人で行政書士法人設立」が可能に!

施行日は、「令和3(2021)年6月4日(金)」から

2019年12月4日に行政書士法改正案が可決され、登録済みの行政書士が「1人」で「法人成り(行政書士法人の設立)」を行うことが可能となりました(※施行は公布から1年6か月を経過した日=令和3年(2021)年6月4日施行とされています)。

 

これまで、株式会社や合同会社と同じく、「弁護士法人」や「社会保険労務士法人」でも「一人法人」が認められておりましたが、今回の行政書士法改正により「2名」集めることなく法人化できるようになり、今後、多くの行政書士法人設立(※一人法人)が見込まれます。なお、司法書士法人と土地家屋調査士法人についても、2019年の法改正により、「一人法人」が可能となっております(法務省HP:司法書士法及び土地家屋調査士法の一部を改正する法律について)が、未だ税理士法人については2人以上の資格者が必要となっています(※今後、税理士法人においても、改正に関する議論がなされているようです)。

 

本記事では、今回の法改正で認められることになった「一人行政書士法人」のメリット・デメリットについて、2016年1月4日付けで行政書士法人を設立して満6年以上の経験を有する代表社員野村篤司の個人的見解を記載していきます。

 

【参考情報】「行政書士法の一部を改正する法律」の成立について(会長談話)

 

本ブログ内の「一人行政書士事務所」「一人行政書士法人」の定義について

本ブログ記事内では、「一人行政書士事務所」を、「登録している行政書士が1人である個人事務所」と定義して執筆しています。そのため、「行政書士は1人だけど、従業員は5名以上いる」ようなケースも「一人行政書士事務所」「一人行政書士法人」として記載しています。

 

「一人行政書士事務所」が「一人行政書士法人」にするメリットは?

(1)「法人格」に対する社会的信頼性の獲得

これは「法人格の取得」により、「外形的に」判断される部分です。たとえ「一人行政書士法人」(行政書士が1人しかおらず、実質的に個人事務所と変わらない場合)であっても、形式的には「法人であって個人事務所ではない」ため、「法人か否か」という点において、個人事務所よりは、(一般的に経済的取引上の)信頼性が高いです。

 

突然ですが、質問です。直感で、以下のいずれか一方を選ぶ場合、どちらに相談したいと思いますか?

 

1.「●▲■行政書士事務所」「●▲■社会保険労務士事務所」

2.「●▲■行政書士法人」「●▲■社会保険労務士法人」

 

→「どちらでも相談したい」と答える人はいても、あえて「1.●▲■行政書士事務所」にだけ相談したいと思う方は少ないでしょう。これが社会通念所の「法人格」に対する信頼性です。特に「大手企業」が外注先として行政書士を探す場合では、複数名と面談して費用面などを比較考慮し、稟議にかけることも珍しくありません。その際に、

 

『選定条件の1つとして、そもそも個人事務所は対象としない』

 

としているところも少なくありません。実際に、当法人のお客様に尋ねたことが何度かありますが、「個人事務所だと稟議にあげづらい」という担当者が珍しくありませんでした。もちろん、「法人格の有無よりも実績やノウハウ」であることは当然です。ただ、経験やノウハウがあるかどうかは、相談してみないとわかりません。事前情報が少ない消費者にとっては、やはり「個人事務所よりも法人の方が安心する」のではないでしょうか。

 

このように、「法人格を得る」ことは信頼性獲得のうえでプラス面として寄与することは間違いないでしょう。「法人は嫌だ!個人事務所がいい!」とはなりませんよね?

 

ちなみに、当たり前ですが、「個人事務所」で「●▲■法人事務所」みたいな紛らわしい名称を用いることは出来ません。

 

(2)税法上・社会保険上のメリット

所得水準によっては、「税率」が所得税法よりも法人税法の方が低いことや、行政書士に対する給与(役員報酬)を「経費」として参入することが出来るなど、たとえ「一人行政書士法人」であっても、一般的な法人化のメリット(※外部サイト:株式会社freee 個人事業主が法人化(法人也り)するメリット・デメリットとは?)が享受できます。

 

この点は、個別具体的な所得状況(他の収入がある場合など)や扶養家族の状況、住宅ローン減税の有無を踏まえて、「税理士」にご相談されると良いでしょう。

 

また、支出が増えるという点でデメリットとも言えますが、国民年金よりも保障が圧倒的に手厚く、受給開始年齢に到達したときに支給される年金額も国民年金と比べてはるかに多い「社会保険(厚生年金・健康保険)」に加入することが可能となります(※)。自営業者が中心に加入する「国民年金・国民健康保険」と比べて、厚生年金の手厚さは驚くほどです。特に、同一世帯の家族が増えた場合、国民健康保険は頭数で増えるのに対し、健康保険は同じであるため、数万円程度差が出る場合があります。ケガや働けなくなった時の保障内容もはるかに違います。

 

2020年5月29日に「年金制度の機能強化のための国民年金法等の一部を改正する法律案」が国会で成立し、同6月5日に公布され、2022年10月1日より適用されることとなりました。これにより、「5人以上の士業事務所」は強制加入になるようです。詳しくは、「社会保険労務士」又は「年金事務所」へご確認ください。

 

 

(3)人材採用・人材獲得面での優位性

事業拡大局面において、「個人事務所」と比べて、たとえ「一人行政書士法人」であっても、人材を採用しやすいと言えます。これは前述した「社会保険の適用事業所である」点が大きいですが、個人事務所の求人と「法人(会社)」の求人では求職者から見た場合のイメージが違います。

 

「個人の事務所」はどうしても閉鎖的であり、属人的な「イメージ」があり、敬遠される傾向があります。ちなみに、当社では一般的なアルバイト求人情報誌に掲載したところ、3週間で30名を超える応募がありました(2019年夏頃)。個人事務所だったら、これだけの応募はないのではないでしょうか(行政書士事務所の求人応募は、名古屋では多くはないですが、珍しくもないです!)。実際に今いるスタッフに尋ねても、「個人事務所への応募は最初に避けた」というのが全員一致の意見でした。ちなみに私も、前職時代は大手士業系グループでした。士業事務所で経験を積みたいと考えていましたが、個人事務所はなんとなく避けました。「ボス」と相性が合わなかったら逃げ場がないなと感じたためです。

 

(4)行政書士法人同士の「合併(M&A)」が経営戦略上、可能となる

個人の行政書士事務所同士の場合、「合併」というのはあり得ず、ただの「合同事務所」ないしは「共同事務所」となります(若しくは、それに伴う法人化)。「行政書士法人」同士の「合併」は行政書士法の中で明確に定義されているため、今後は、例えば「建設業許可に強い行政書士法人」と「外国人に強い行政書士法人」の合従連衡型M&Aなども増えていくかもしれませんね。

 

(5)事業年度を自由に設定できる

当法人ではあまり気にしたことがありませんが、法人化の一般的なメリットの1つとして、事業年度を自由に設定することができるため、「毎年2~3月は多忙で決算処理なんてやってられない」という事業者は、閑散期に決算期が来るなどのメリットがあるかもしれません。自動車関連業務を中心に行っている行政書士事務所は影響が大きいかもしれませんね。

 

「事業年度を変更することができる=大きな売上が上がりそうな月を翌期以降にし、役員報酬を増額させることで利益を吸収させることができる」ため、税負担額を抑えやすいという利点があります。これは、事業年度を変更しているだけですので、「キャッシュアウトを伴わない節税」と言われるものです(租税回避目的で頻繁に行わない限り、もちろん合法です)。個人事業主の場合は、1月1日~12月31日以外の選択肢はないため、このような「キャッシュアウトを伴わない節税」を行うことはなかなかできません。

 

余談ですが、当法人は、11月1日~10月末が1事業年度です。年末と決算が重なりますが、決算を確定させて新年を迎えられるので、「10月末締め」は結構お勧めですよ(^^♪

 

(6)政策的な支援が受けられやすい

法人格の信用の高さは、国から見ても同様です。現に、「持続化給付金」や「事業復活支援金」では、個人事業主と法人で明確な差が設けられましたね。また、小規模事業者持続化補助金等も、公募要領上は平等ですが、法人格の方が採択されやすいと言われることもあります(これは当法人が支援を継続する中で、感じます。程度の差はそれほど大きくありません。)。資金調達(銀行融資等)の面でも、同様でしょう。

 

これらの理由としては、やはり「個人資産」と「法人資産」が明確に分離するため、補助金等の流用等の心配が少ないからではないかと考えます。個人事業主は、法人格がないため、いくら事業用資産といったところで、その所有権は個人事業主本人に帰属せざるを得ないためです。

 

「一人行政書士事務所」が「一人行政書士法人」にするデメリットは?

行政書士が一人なら「支店設置」ができず、十分にメリットが享受できない

「一人行政書士法人」は「法人格」こそあれど、実態は「一人」であることに変わらないので、唯一の受任者である行政書士に緊急時や万が一(突然倒れて意識不明に陥った場合など)のことが発生した場合に、顧客へ迷惑が掛かる可能性が残ります。これは「一人事務所」のデメリットと同様です。なお、「複数」での行政書士法人化で得られるメリットのうち、「複数拠点を設置できる」というメリットが「一人行政書士法人」では享受されない点は要注意です(事務所ごとに社員行政書士の常駐義務があるため)。

 

ちなみに当法人では、最大4拠点(東京・大阪・名古屋・安城)の従たる事務所を有しており「多拠点戦略」を取っていましたが、コロナ禍を機とした「オンライン相談」の普及により、当法人が考えてきた「複数拠点のメリットがほぼ喪失」してしまったため、今は社員行政書士が2名いるもの、「本社1拠点のみ」となっています。おそらく社員行政書士が増えたとしても、これから「拠点」を増やすことはまずしないでしょう。デジタル庁設置なども影響して、1つの拠点さえあれば、十分に商圏の拡大を図ることができるためです。

 

「行政書士会費」や「法人住民税の均等割り」等の「運営コスト」は増える

個人会員分に加え、法人会員分として会費が発生したり、行政書士損害賠償保険料の保険金額が上がったり、顧問税理士への顧問料(外注費)が発生したり、ネットバンキングの利用料が増加したり、何かとコスト増になります。たとえ赤字であっても、最低限の「法人住民税(均等割額)」の支払い義務が発生してしまうこともコスト増の一つです。ただ、コスト増といっても、せいぜい「年間10~20万円程度」です。増えることは確かですが、信用増で得られる経済的影響の方が上回るでしょう。

 

結局、「一人行政書士法人」を設立するべき?しないべき?

メリット・デメリットを踏まえ、筆者の見解

①「従業員の雇い入れ」や「複数拠点の設置」など、事業を大きくするつもりがなければ、一人の状態で法人化する必要性は乏しい

→行政書士事業を行う理由は人それぞれですので、「事業を拡大するつもりがない」という方がいらっしゃるのも当然理解できます(むしろ半数以上がそうではないでしょうか?)。このようなお考えの場合は、特に「一人法人化」する必要性は乏しいでしょう。

 

②反対に、事業を拡大させたいのであれば、デメリット以上のメリットが享受できると考えるので、この法改正のチャンスを活かすべき

→これまでは事業拡大を目指して「法人化」したくても、相方となる行政書士が見つからないなどの理由で、なかなか法人化できない個人事務所が多くありました。「ビジネスは信用で成り立つ」ものですので、法人化によって多かれ少なかれ受注や相談が増えることも期待できます。年間10~20万円程度の法人化後のコスト増は、1年もあれば十分に回収することが出来るでしょう。このチャンスを活かさない手はありません。

 

③「所得水準」が低い状態であれば、「所得税率」が「法人税率」よりも低い

→経費算入できる経費の違いなどもあるため、経験豊富な税理士に相談してシミュレーションをしてもらってから検討すべきですが、最低税率は所得税法の方が低いのは事実です。そのため、行政書士(個人事業主)としての売上がまだ少なく、結果的にまだ事業所得(収入から事業に要した経費等を差し引いた残りの額)が少ない場合は、税負担の観点だけを言えば、法人化しない方がよいでしょう(あくまで、税負担の観点だけを考えた場合です)。

 

 

以上、検討するうえで3点列挙しましたが、法人するか否かの経営方針に良し悪しはなく、全て事業主である個人の自由なので、特に正解があるわけではありません。個人事業のままがいい人は、そのままでも良いでしょう。誰かにとやかく言われようが、考えを変える必要はありません。

 

ただ今回の法改正は、「規制緩和」ですので、事業拡大を目指す方にとっては、法人化するためのハードルが下がり、追い風になることは間違いないでしょう。少なくとも、行政書士業界にとっては、事業運営がしやすくなり、メリットになる改正内容です。以上、一人法人化の際の比較、参考になれば幸いです。

 

「会計事務所(税理士・公認会計士)」にとっては、参入チャンス!!

公的補助金申請における事業計画書の有償作成は、行政書士の独占業務

「弁護士」「弁理士」「税理士」「公認会計士」の4つの国家資格者については、登録申請手続きのみで、行政書士法人を設立することができますが、昨今、新型コロナウイルス関連の補助金申請において、「公的補助金申請における事業計画書の作成等は行政書士の独占業務」であると明確にされたこともあり、行政書士の登録ニーズが急速に高まっています

 

行政書士の登録が完了していれば、(係争性のない)ちょっとした贈与契約書や賃貸借契約書の作成、遺産分割協議書の作成、株主総会議事録、公正証書遺言の起案などについて、「適法に報酬を得る」ことが可能となります。

 

顧問先が有する許認可の更新や変更手続きなどについても新たな有償支援をすることが可能となり、「会計事務所」にとって新たな収益部門の構築、年間1千万円以上の営業利益(※当たり前ですが、売上高でも売上高総利益でもありません!)獲得も現実的です。但し、高いレベルの行政書士事業の経営ノウハウが必要です。この点については、株式会社エベレストコンサルティングにて、「会計事務所向け行政書士事業立ち上げ支援サービスを提供しておりますので、早期に事業化をされたい先生方はぜひお問い合わせください!

 

おまけ:法人格を得なくても「信頼度」を高める方法=書籍商業出版!

法人格が無くても、個人でも信頼を得られる方法の一つに「書籍出版」があります。自費出版ではなく、商業出版のため、執筆に対して対価を得ることも出来ますし、執筆の過程で知識も深まります。出版社も常に「著者」を探していますので、「良い企画」や「著者の実績」があれば、商業出版は難しくありません。

 

中小企業等の人事担当者向け

一般向け相続実務関係(※共著)