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重度の認知症患者が(判断能力がなくても)相続できる?

増える認知症患者

厚生労働省が公表している推計データによれば、認知症と診断された65歳以上の高齢者は、2010年でおよそ226万人、2015年におよそ262万人、そして2020年にはおよそ292万人に達すると予想されています。認知症と診断されていなくても、年齢を重ねると共に判断能力が低下することは当然でもあり、将来、自分の親や自分自身が認知症になったときのことを頭に入れておくことは、それほどおかしなことではないでしょう。

以下、今回の「重度の認知症患者が(判断能力がなくても)相続することはできるのか」という問題に回答していきたいと思います。


成年後見人がついていなくても、相続することはできる?

相続の相談を受けていると、相談者(相続人であるご長男様)様から「(亡くなられた方の奥様)母は重度の認知症で特養で生活している。自分のこともわからない。」というご相談を頂くことは珍しくありません。いったい、本人は相続したことや配偶者を亡くしたことさえわからない状態であっても、故人が残した財産(遺産)を承継(相続)することはできるのでしょうか?


結論から申しますと、相続人である本人が相続したことを理解できなかったとしても(さらに言えば死亡の事実さえ知らなかったとしても)、「相続人」に該当するのであれば、当然に(なんらの手続きをすることなく)法定相続分の割合に従い、相続することになります。このことは、成年後見人がついているか否かについては関係がありません。なお、他に相続人がいれば、故人の残した財産は、相続人が複数で「共有」状態として相続することになります(民法第898条)。


相続することはできても、「遺産分割協議」は単独ではできない。

さて、ここで注意が必要になりますが、他の相続人と共同で相続することはできても、その共同で相続した財産を話し合って分ける(共有状態ではなく、相続人のうち1人が相続することにする等)場合は、「成年後見人」という財産を管理してくれる人を付ける必要があります。要するに、「何か考えないといけないことは単独では(後見人なくして)できない」というわけですね。

家庭裁判所に対する後見開始審判の申し立ては、早くても1カ月はかかります。また、成年後見人として誰を選任するかは家庭裁判所が決定権を有しており、まったく見ず知らずの専門家がいきなり登場することもあります。もちろん費用もかかります。


活躍するのはやはり「遺言書」!

さて、上記ご説明しましたとおり、あらかじめ推定相続人に(成年後見人のついていない)認知症を患っている方がいらっしゃいますと、遺産分割協議がすぐにはできず、相続手続きが煩雑になります。また、仮に成年後見人がついていたとしても、全く制限なく遺産分割ができるわけではなく、原則的には、法定相続分を確保した内容でしか、遺産分割協議をおこなうことができません。


それでは、こういったことを避けるには、どのような方法があるのか。

よくご質問をいただくことでもありますが、やはり「遺言書」を作成されるのが一番の方法です。

専門家指導のもと、不備のない遺言書を残しておけば、遺言書通りに相続されることが期待できるため、遺産は共有状態とはならず、遺言書に従って、分配されます。つまり、「考えないといけない遺産分割協議をする必要がない」のです。考える場面が出てこないので、この遺言書での手続きに判断能力は要求されず、わざわざ相続手続きのために後見開始審判の申し立てをする必要がなくなります。


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コメント: 8
  • #1

    Tomokazu (土曜日, 02 12月 2017 22:12)

    こんにちは。
    遺産相続のことを調べていてこちらのサイトにたどり着きました。

    1つ、質物をさせてください。

    認知症患者がいる場合で、遺産分割協議書をするケースでも、もし、認知症患者が全部を相続し、かつ、相続することの意味を理解していると医師が診断書を書いている場合でも、遺産分割協議は行っても無効になるのでしょうか?

  • #2

    行政書士野村です。 (土曜日, 02 12月 2017 23:14)

    tomokazu様
    ご質問ありがとうございます。認知症と診断されていても、成年後見(又は保佐・補助)開始の審判がなされているか、つまり後見人が付いているかどうかで異なります。仮にそのような医師の診断書があっても、後見人が付いている状態のままであれば、後見人の同意がなければ無効(保佐や補助の場合は取消)となります。最も、後見開始の審判の要件(レベル)は、事理弁識能力を「欠く常況」ですから、成年被後見人にそのような診断がなされることは想定しにくいです。

    一方、後見開始の審判がなされていない状況であれば、そのような診断書が医学的見地から出されるようであれば、理解できているものとして有効になる余地はあります(認知症と診断があることだけをもって、直ちに無効とは言えません)。ただ事後的に相続人の一部から無効主張される可能性もあるため、主治医だけではなく認知症専門医の方のセカンドオピニオンも受けておくなど、慎重な対応が求められます。

    以上が回答になります。引き続き相談をご希望の場合は問い合わせページよりご連絡ください。ご質問ありがとうございました。

  • #3

    simamura (土曜日, 01 9月 2018 03:49)

    お願い致します。知人ですが、相続人が一人(93歳)で女性、認知症です。ご自分の娘が昨年8月亡くなり不動産・預金等相続しました。現在は長男と司法書士が後見人をしているのですが今年の4月に申請、7月に選定されました。相続人は認知症とは言え一人なので相続自体は後見人無しでも有効なのでしょうか。後見人が決まるまでの間、長男が不動産登記を済ませています。現在、この遺産を巡って死因贈与で第三者と交渉しており、そもそも登記自体、無権代理で無効なのでは、と言っているそうです。司法書士にも責任がある?

  • #4

    行政書士野村です。 (土曜日, 01 9月 2018 14:48)

    simamura様、ご質問ありがとうございます。相続というものに意思表示は必要なく、遺言がなければ、身分関係のみで所有権は相続人は移ります。またもしご長男がお母様に対して何か権利を有している状況であれば、唯一の相続人である母(亡くなられた娘さんにはお子様がいらっしゃらないということですよね?)に対して登記名義を変更できる可能性は十分にあります(債権者代位権)。コメントだけからは事実関係に不明な部分がありこれ以上の回答は差し控えますが、係争中であれば、早めに弁護士に相談されるといいでしょう。コメントありがとうございました。

  • #5

    simamura (土曜日, 01 9月 2018 16:50)

    早速のご返答ありがとうございます。あまりの速さに感激しています。
     これで最後にしますが、前述の場合、係争相手には当初母親の認知能力に問題なしと説明していたらしいのですが、重度の認知症であることは明らかで相手の追求によってやっと8か月後に後見人を付けたらしいのです。
     いずれ後見人は必要になると思うのですが、係争相手に対しては不誠実で噓をついていた事になります。暫く認知症の事実を明らかにしていなかった可能性も捨てきれません。この様な事は多々あるのでしょうか。
     事実関係を明らかにしないことには、話し合いも成立しないと思います。司法書士の皆様はこの様なご経験はあるのでしょうか。とりとめのない質問ですみません。

  • #6

    行政書士野村です。 (土曜日, 01 9月 2018 17:29)

    詳しい状況がわかりかねますので、なんとも判断致しかねますが、一般的に有意義な話し合いの前提としてはお互いに信頼できる状態が前提でしょう。過去に虚偽説明等があった事実により不信感に陥っているならば、おっしゃるとおり事実関係を再度互いに明らかにするところからですね。当方は「行政書士」ですが、「司法書士」も弁護士ではないため、係争案件には基本的には関与できません。そのため係争案件自体に関与することがないため、多々あるか否かはわかりません。少なくとも我々は公的資格者であり職業倫理もありますので、虚偽説明(認知症の事実を知っておきながらそれを秘匿することを含む)に関与することはまずありません。対応できず申し訳ございませんが、悪しからずご了承ください。ブログを閲覧頂きまして、誠にありがとうございました。

  • #7

    simamura (土曜日, 01 9月 2018 21:34)

    稚拙な質問にも真摯にお答えいただき、ただただ感謝です!ブログは継続して拝読させて頂きます。ご活躍を祈念いたします。

  • #8

    ふじ (水曜日, 15 6月 2022 08:16)

    相続人に病気で判断能力がない方がいます。
    相続人でその方以外全員が相続放棄した場合
    判断能力がない方のみが、相続人の対象になりますか?

    判断能力がない方が相続手続きをしなかった場合、相続放棄したその他全員に、管理責任等の何か責任は残りますか?