「遺言書を作成しようと思うが、どのように書けばいいのか」
「確実に意思を伝えたいが、書き方に決まりはあるのか」
大切な人を相続争いに巻き込まないよう、遺言書の作成をお考えですね。
遺言書を作成すると、相続トラブルを未然に防ぐだけでなく、死後の財産の洗い出しなどによる遺族の負担を軽減することができます。
しかし遺言書に書かれた内容が法的にしっかりと遂行されるためには、誤った表記や曖昧さのある表現を排除し、法的な正しさを持ったものでなければいけません。
そのため、以下のように正しい作成方法に則って安全に保管することが、何より重要と言えます。
そこでこの記事では、あなたの大切な人が相続争いに巻き込まれないよう、遺言書の種類やそれぞれの作成方法、保管方法や費用についてわかりやすくお伝えします。
この記事を読むことで、あなたに合う遺言書を作成し、相続に関するあなたの希望を確実に遺すことができます。
1.作成の前に遺言書の種類をチェックしておく
一般的な(危急時を除く)遺言書の作成方法には、以下の4つの種類があります。
それぞれ作成方法や保管方法などに違いがありますので、詳しく見ていきましょう。
1-1.公正証書遺言書
公正証書遺言書は、遺言したい内容を公証人に公証役場で伝え、その内容を元に公証人が作成するものです。
公証人になれるのは、高度な法的知識と豊富な法律実務経験を有している法律のプロとも言える人たちで、以下のように法律で定められています。
注意したいのは、公証人はその立場上中立・公正な存在である必要があるため、遺言内容についての相談には乗ってくれないことです。
遺留分についての注意等はしてくれますが、実際に「だれに・何を・どれくらい」遺すかは、遺言者本人が公証人に面会する前に決めておく内容になります。
公正証書遺言書は、以下の方におすすめです。
1-2.自筆証書遺言書(本人保管)
自筆証書遺言書は、その名の通り自分で手書きで遺言書を書き、日付と捺印をして保管するものです。
書き方に規定はないため、遺言書であることと「だれに・何を・どれくらい」を明記しておけば、内容は自由に書くことができます。
思い立った時に手軽に書ける一方で、保管方法に悩むことが多いのが特徴です。自分で置き場所を決めて保管することになるのですが、保管する場所によっては、以下のようなリスクがあります。
「どこに遺言書を保管するか」と「遺言書の存在をだれに伝えておくか/伝えないか」が自筆証書遺言書では非常に重要な選択になってくると言えるでしょう。
本人保管による自筆証書遺言書は、以下の方におすすめです。
1-3.自筆証書遺言書(法務局保管)
自筆証書遺言書は、手書きでさえあれば思い立った時に書くことができるものですが、前項で解説したように保管場所の心配が尽きないことから、令和2年(2020年)7月10日から、法務省法務局での自筆証書遺言書の保管制度が開始しました。
自筆証書遺言書のように本人が手書きで書くものですが、外形的な様式が厳格に定められていたり、加筆修正した場合の修正の仕方がとても細かく指定されています。法務局保管の自筆証書遺言書は、本人保管の自筆証書遺言書とは性質の異なるものと思っておいた方が無難です。
保管を依頼する法務局に提出する時点で、余白が足りなかったりサイズが規定のものと異なったりする場合、預かってもらうことができなくなります。
なお、1-1.公正証書遺言書の場合と同様に、遺言内容についての細かい相談はできないため、遺言者本人が決めて書くことになります。
法務局で預かる際に見るのはあくまでも外形的な様式のみについてなので、遺言書の内容そのものに不備があった場合、遺言書の効力を保証するものでありません。
法務局保管による自筆証書遺言書は、以下の方におすすめです。
1-4.秘密証書遺言書
秘密証書遺言書は、署名・捺印した完成した遺言書に封印をした状態で、公証役場で公証人と証人に遺言書の存在自体を証明してもらうものです。
そのため、遺言書に書かれた内容については、基本的に作成した本人や代筆者しか知り得ません。また、保管方法についても、本人保管になるため、1-2.自筆証書遺言書(本人保管)の項でお伝えしたような、保管上のリスクが発生してきます。
書式は手書きでもパソコンで打ち出したものでも構わず、また作成自体も本人ではなく代筆でも問題がないものですが、法的な誤りがあったり、保管場所のリスクが多かったりすることから、あまりこの方法は採用されていないのが現状です(※公表されているデータが少ないですが、年間100件前後とされています)。
秘密証書遺言書は、以下の方におすすめです。
2.公正証書遺言書の作成方法
公正証書遺言書は、遺言書の効力そのものや保管方法の両方の面で、もっとも確実で安全性が高い遺言書と言えます。
公証人という法律のプロの目を通してから作成されるものなので、記載の不備や曖昧さなどによって遺言の内容そのものが無効になることはないのです。
また、保管についても、公証役場で厳重に保管されるため、改ざんや紛失の心配がありません。
ただし、1-1.公正証書遺言の項でもお伝えしましたが、公証人に相談できる内容は「法律上無効になる/ならない」といった事項なので、その先の解決策について一緒に考えたり、法律上の必要な手続きを一緒にしてくれるものではありません。
法定相続人以外の人に相続をしたい方や、どうしても相続させたくない相手がいる方など、相続について個別で心配なことがある場合には、専門家に内容について相談し、必要な対策をしてから公証役場を訪れる必要があります。
ここでは、公正証書遺言書の作成方法について、以下のステップを追って説明していきましょう。
STEP1:相続財産の洗い出し
まずは相続対象となる財産の種類とその額をすべて洗い出します。
重複や漏れがないよう、ひとつひとつ紙に書いていきます。
遺言書を書く目的のひとつとして、「大切な人を相続争いに巻き込ませない」というものがありますが、もしも遺言書に記載のない財産が出てきてしまうと、法定相続人の間で遺産分割協議を行う必要が出てきます。
そうした事態を避けるためにも、保有している財産はたとえ少額と思ったものでも、思い出せる限り書き出してください。
STEP2:だれに何をどれくらい遺すかを決める
保有している財産の種類と額がわかったら、それぞれの相続先と金額を決めます。
だれに:どの相続人または団体等に
何を:どの種類のどの財産を
どれくらい:割合や相当額を明示する
通常の相続の場合には、この3点をしっかり整理しておけば、公証人に遺言書の作成をしてもらうことができます。
しかし、以下のようなケースでは、公証人に遺言書の作成を依頼する前に、法律の専門家に相談をして、分割方法の検討や家庭裁判所などでの必要手続きを踏まえる必要があります。
・不動産以外に相続できる財産がない
・相続させたくない相手がいる
詳しくは4-1.内容の相談は専門家にするの項目でもお伝えしますが、公証人には基本的に「遺言者が決めたことを法律的な効力のある文書にしてもらう」ものだと思っておきましょう。
STEP3:公証役場に作成の申し込みをする
公証役場に連絡をし、公正証書遺言書の作成をしたい旨を伝えます。
公証役場は全国に300ほどあるので、以下の日本公証人連合会のページから自分の行きやすい場所を選んで、直接申し込みをしてください。決まった管轄はありませんが、遺言者のお住まいから最寄りの公証役場で作成するのが一般的です。
公証人との面談日を調整し、予約した日時までに遺言書作成に必要なものを準備します。
STEP4:証人を2人依頼する
公正証書による遺言書の作成には、証人を2名立てる必要があります。
この証人は遺言者の意思を確認し、手続が公的な様式に則って行われたことを保証します。
依頼する証人は、以下のいずれかの方法で立てます。
①遺言者本人が証人になってくれる人を探して依頼する
②司法書士や弁護士などの法律の専門家に依頼する
③公証人役場で証人を準備してもらい依頼する
いずれの方法で立てた証人でも、証人としての効果は変わりません。
ただし、以下の人は証人になることができないため、遺言者本人が証人を探す場合には注意してください。
・未成年者
・推定相続人(≒法定相続人)
・遺贈を受ける者(=推定相続人の資格のない人で遺産を譲り受ける人)
・「推定相続人」および「遺贈を受ける者」の、配偶者および直系血族等
STEP5:集めた必要書類を提出する
STEP3:公証役場に作成の申し込みをするで予約した公証人との面談日に、遺言内容のメモと以下の書類をすべて提出します。
書類を提出し、作成して欲しい内容を伝えたら、遺言書の案のできあがりを待ちます。
STEP6:遺言書の案の確認と修正
遺言書の案ができると、遺言者本人にメールなどで送られてきます。
内容を確認して、間違いや訂正したい箇所があれば修正を依頼します。
公証人が修正を反映し、遺言者本人によって遺言書案が確認されると、遺言書の作成日時を取り決めます。
この遺言書案の確定によって、手数料の金額が決まります。
手数料は相続させる相手ごとに、以下の表に当てはめた合算金額で請求されます。ただし、手数料令19条にて、「遺言加算」という特別の手数料を定めており、1通の遺言公正証書における目的価額の合計額が1億円までの場合は、1万1000円を加算すると規定されていますので、最低でも1万6千円はかかります。
作成した遺言書原本は公証役場に保管されますが、保管については無料で行われます。
STEP7:公正証書遺言書の作成当日
事前に決定した公正証書遺言書の案とその修正を反映し、公正証書遺言書の作成をします。
これはだいたい必要書類を提出した日から1~3週間ほどかかるもので、実際にどれくらいかかるかはそれぞれの公証役場の混雑状況によります。
作成当日は事前に決めておいた証人2名が同席します。全員が身分証明書(運転免許証の写しなど)の確認をされるため、忘れないように持参してください。なお、予め証人が決まっている場合は、事前に提出を求められることが一般的です。
証人の前で、遺言者本人が遺言内容の意思を改めて口頭で伝え、公証人の読み上げる遺言書と内容に相違がないかを遺言者本人および証人2名が確認をします。
証人と公証人の署名押印によって、晴れて公正証書遺言書の作成が完了します。
作成した遺言書の原本は公証役場で保管され、遺言者本人には正本と謄本が渡されます。
3.自筆証書遺言書の作成方法
自筆証書遺言書は、本人が手書きで遺言書本文の全文を作成します。
思い立った時にいつでも自分一人で書くことができるため、手軽に簡単に作ることができると言えます。
ここでは、以下のステップに従い、自筆証書遺言書の作成方法を見ていきましょう。
STEP1:相続財産の洗い出し
公正証書遺言書と同じく、まずは相続対象となる財産の種類とその額をすべて洗い出し、財産目録を作成します。
自筆証書遺言書の場合、本文は必ず手書きであることが条件になりますが、財産目録や財産の詳細を示す資料については、パソコン入力して書き出したものや資料のコピーを添付しても構いません(法改正によって、負担が軽減されました。但し注意点はございます。)。
STEP2:だれに何をどのくらい遺すかを決める
保有している財産の種類と額がわかったら、それぞれの相続先と金額を決めます。
だれに:どの相続人または団体等に
何を:どの種類のどの財産を
どのくらい・どれくらいの割合や相当額で
内容があまり複雑でない通常の相続の場合には、この3点をしっかり整理しておけば、その旨を自筆で書くだけで済みます。
しかし、公正証書遺言書と同じく、以下のようなケースでは、法律の専門家に相談をして、分割方法の検討や家庭裁判所などでの必要手続きについて、指示を仰ぐ必要があります。
・不動産以外に相続できる財産がない
・相続させたくない相手がいる
なお、もしも所有財産すべてを書き出しきれていないのではないかという不安が残る場合には、本文に「その他の一切の財産は〇〇に相続させる」といった一文を明記しておくと安心です。
STEP3:清書する
遺言書の本文を清書します。
読んだ相手に誤解なく伝わるものであれば、自筆証書遺言書の場合、基本的に形式も文言も自由です。但し、解釈が分かれるような文言は望ましくなく、法的な効力が発生する内容(遺言事項)は法律で限定列挙されているため、行政書士や弁護士に相談するのが賢明です。
また、訂正や修正箇所が多いと改ざんの可能性を疑われることもあるため、できるだけ間違いのないように、一語一句丁寧に清書してください。
STEP4:すべてのページに署名・捺印をする
遺言書本文の最後、および財産目録や財産の詳細を示す資料のすべてのページに自筆による署名と捺印をします。印鑑については、認印でも構いませんが、実印登録がしてある場合は、実印で捺印することが望ましいです。
本人が管理する自筆証書遺言書の場合は、封筒に入れても入れなくても構いませんが、封筒に入れない場合は破棄や改ざんの危険が高まることに注意してください。
また、封筒には署名や捺印は必要なものではありませんが、表に「遺言書」と書いておかないと、死後に発見されない可能性があります。
法務局で保管してもらう自筆証書遺言書の場合には、さらに以下の様式に則って作成する必要があります。
すでに書き上がっている遺言書の加筆や修正をする場合、訂正箇所に訂正印を押したうえで、何文字追加または削除したかについても、本文中の空いているスペースに詳細に記載します。
この訂正についても、余白の中に納める必要があるため、清書は慎重に行う必要があります。遺言作成実務においては、加筆や修正をするのではなく、全て書き直すことも一般的です。これは訂正方法を誤ると、訂正部分が無効になる可能性があり、遺言者本人の意図とは異なる結果になりかねないリスクがあるためです。
4.遺言書の作成で注意すべきこと
遺言書を書く目的は、遺された家族に相続のために余計な争いを起こさせないことです。
そんな善意で遺言書を残しても、遺言書そのものが発見されなかったり、曖昧さがあったりしては、そこを焦点に争いが勃発してしまいかねません。
そのため、遺言書の作成においては、以下のことに注意しておきましょう。
・内容の相談は専門家にする
・遺言執行者を設定する
・保管場所に配慮する
・遺言書があることを伝えておく
・遺留分について配慮する
それぞれ順に、詳しく説明していきましょう。
4-1.内容の相談は専門家にする
自筆証書遺言書を書く場合、素人考えだけで書いてしまうと、法的に効力のない内容になってしまうこともあります。
そしてこれまでにも何度か説明してきましたが、公正証書遺言書を書く場合でも、公証人には遺言内容についての相談はできないものです。
法的に正しく効力のある遺言書を残すには、法律の専門家に相談するのがもっとも安全で確実です。
特に以下の方は、遺言書を書く際だけでなく遺言が執行される際にも専門家の助けが必要になることがあるため、確実に遺言の通りに進めて欲しい場合には、専門家を頼りましょう。
・相続するものが多い
・相続する相手が多い
・不動産以外に相続する金融資産が少ない
・どうしても相続させたくない相手がいる
・子どもがいなくて自分の兄弟とは疎遠である
遺言に記載する内容について相談できる法律の専門家は、以下の人たちです。
とはいえ、上記の士業の人ならだれでも遺言内容について相談ができるわけではありません。
それぞれに得意分野や不得意分野があるため、遺言内容の相談に適した相手かどうかの判断は必要になります。
専門家を探す際には、遺言書の作成の実績があるかどうかをしっかりと確認してください。
4-2.遺言執行者を設定する
遺言執行者とは、遺言書に書かれた内容を実現するために、それぞれに必要な手続きをする人です。
具体的には、以下のようなことをします。
・相続人全員への連絡(失効対象となる財産目録の作成及び交付)
・戸籍等の相続証明書類集め
・相続財産の実態調査(残高証明書の収集など)
・法務局での名義変更・登記申請手続き
・各金融機関での解約(承継)手続き
・株式等の名義変更手続き
細々とした事務手続きが多いですが、遺言執行者には手続きに関する一切の権限が与えられます。
相続人の代表者が行うこともできますが、もしも相続人のうちに遺言内容に承知できない人がいそうな場合には、4-1.内容の相談は専門家にするでも紹介した、法律の専門家に任せておいた方が遺恨を残さずに遺言を執行することができます。
この場合、遺言書の作成時点から相談をしている専門家なので、おおよその流れや人間関係について把握できているため、起こりうる問題点を事前に想定して回避策を提示してくれるでしょう。
4-3.保管場所に配慮する
遺言書の保管は破棄や紛失、改ざんなどの危険のない安全な場所で行うことが大切です。
公正証書遺言書であれば、作成だけでなく保管も任せておけるので安心です。
自筆証書遺言書の場合、現在もっとも安全なのは法務局預かりにすることです(※法改正により、預かってもらうことができるようになりました)。
1-2.自筆証書遺言書(本人保管)の項で紹介した保管場所ごとのリスクについてもう一度ご確認いただき、遺言を確実に残せる方法や、執行時にスムーズな方法を検討してください。
4-4.遺言書があることを家族に伝えておく
人が死亡すると、遺言書の有無が確認されます。
公正証書遺言書であれば、データベースを使って遺言書が存在するかどうかを調べることができます。
自筆証書遺言書の場合でも、法務局保管のものであれば存在しているか確認ができます。
ただし、本人管理の自筆証書遺言書については、遺品の中から探し出すしか方法がありません。
遺言書があるということを知らされていれば、「どこかにある物を探す」ということで物理的な労力だけで済みますが、もし遺言書の存在について知らされていなければ、遺族は「あるのかないのか分からない物を探す」ことになり、その負担は多大です。
遺言書の内容については秘密にしておく手段があるものなので、遺言書の存在自体は秘密にしておかない方が良いでしょう。
4-5.遺留分について配慮する
遺留分とは、法定相続人(※兄弟姉妹を除く)に最低限保障される、一定割合の遺産取得割合のことです。
法的に効力のある遺言書とはいえ、相続人のこの基本的な権利を侵害する内容であった場合には、裁判沙汰になることがあります。
「びた一文渡したくない」という場合は相応の手続きを踏むことで遺言者本人の意思を通すことができる場合がありますが、無駄な相続争いを避けるためには、この基本的な遺留分について配慮して配分することが大切です。
5.遺言書の作成によってできることとできないこと
遺言書はきちんと手続きを踏んで書けば法的な効力のあるものですが、その遺言書であってもできることとできないことがあります。
作成に取り掛かる前に、遺言書によって主にどんなことを指示できるのか/指示できないのかを確認しておきましょう。
5-1.遺言書の作成によってできること
遺言書の作成の大まかな内容は「だれに・何を・どれくらい」遺すかの指示になりますが、「だれに」を増やしたり減らしたり、遺言書を書く前に取り決めていた「何を」について変更したりすることができます。
具体的にどんなことができるのか、遺言書でよくあるケースを見ていきましょう。
■相続権の剥奪(廃除)
ある相続人が遺言者本人に対して虐待や侮辱などの著しい被害を与えている場合に、この相続人から相続人の資格を奪うことができます。
虐待や侮辱の事実について、事前に家庭裁判所に申し立てを合わせて行い、受理されることが前提になります。
■子の認知
婚姻外でできた子どもを自分の子とし、法的な親子関係を持つことで、相続人にすることができます。
■生前贈与分の持ち戻し免除
生前贈与を行った分については、相続が始まると相続財産に加えて相続人への分割対象になるもの(持ち戻しといいます。)ですが、これをほかの相続財産とは分け、贈与させたまま持ち戻しをしないことにしておくことができます。
■保険金の受取人の変更
すでに決まっている保険金の受取人について、遺言書の記載をもってその受取人を変更することができます。
以前は出来ませんでしたが、保険法の改正により認められることになった経緯があります。但し、受取人の変更がされたことを知らずに、保険契約上の受取人が保険金を請求してしまうケースなど、受取人の変更の効力が発揮できない場合もあるため、実務では、ご生前に保険契約の内容変更を行うことができる状況にある限りは、あくまで保険契約の変更によって受取人を変更することが一般的です。
5-2.遺言書を作成してもできないこと
遺言書を作成しても、以下の内容については遺言通りに執行されることはありません。なお、効力のない部分があったとしても、遺言書そのものの効力がなくなるものではないため、そのほかの部分は遺言通りに執行される可能性があります(部分無効/部分有効)。
■遺留分侵害額請求を禁止すること
■相続権の剥奪のところでお伝えしましたが、相続人の資格を奪うには、家庭裁判所への申し立てと事実関係の確認が必要になります。
この手続きを踏まなければ、遺言書で特定の相続人に相続させない旨を書いても、その相続人はほかの相続人に対して自分の遺留分を求めることができます。これを「遺留分侵害額の請求」と呼ぶのですが、請求すること自体を禁止することは、遺言書でもできないのです。
■認知以外の身分変更をすること(結婚・離婚、養子縁組・離縁)
■子の認知のところでお伝えしましたが、遺言書によって法的な親子関係を結ぶことができるのは、あくまでも婚姻外でできた子どもだけです。
非嫡出子以外の人物との養子縁組をはじめ、離婚など「相手の戸籍上の身分を変えること」はできません。
6.遺言書の作成を専門家に依頼するメリットとデメリット
遺言書が法的に正しいものか、自分のケースではどうするのが最善なのかなどは、やはり法律の専門家に相談した方が確実です。
法的な知識のない者が、推定相続人の権利を考慮せずに書き上げた遺言書では、かえって相続争いなどの火種となることがあるからです。
法律の専門家に遺言書の作成を依頼することには、以下のようなメリットとデメリットがあります。
それぞれ具体的に見ていきましょう。
6-1.遺言書の作成を専門家に依頼するメリット
これまでにも何度かお伝えしてきたように、遺言書は家族に相続争いをさせないために作成するものです。
内容に不備がなく、確実に効力を発揮できるものを作成したいものですね。
専門家に内容の相談をすることで、遺言書は確実に間違いなく執行される内容のものにすることができます。
専門家に遺言書の内容を相談することの具体的なメリットは、以下の3点です。
それぞれ詳しく見ていきましょう。
6-1-1.相続対策や相続トラブルへの適切なアドバイスがもらえる
相続においてどんなトラブルが起こりうるものなのか、専門家の立場からのアドバイスや対策方法を聞くことができます。
相続に関係する人の洗い出しと相続割合から、個別に相続権の剥奪ができるかどうか、事前にどのような対策や準備をしておくべきなのかを知ることで、遺言書の内容に法的に確実な効力を添えることができます。
6-1-2.遺言者の希望や事情を反映した遺言案を提示してくれる
法定相続人以外への遺産相続の仕方や、遺贈と呼ばれる団体への遺産を使った寄付など、あなたの想いを遺すためのさまざまな情報と方法を提示してくれます。
実際に遺言書の作成に取り掛かる前に必要な法的手続きについても、難しい部分は代行を依頼できるので、しっかりとあなたの想いを遺言書にしたためることができて安心です。
6-1-3.相続人が事情を知っている専門家へ相談できる
遺言者本人の意向をしっかりと受け止め、一緒に遺言書を作成した法律の専門家がいると、遺言が執行される際にも安心です。
相続人が遺言書の内容の通りに滞りなく相続を進められるよう、事情を知っている専門家が遺族をサポートしてくれます。
6-2.遺言書の作成を専門家に依頼するデメリット
遺言書の作成を専門家に依頼するデメリットは、端的に言って「お金がかかる」ということの一点です。
遺言書の内容について相談し、作成を依頼できる法律の専門家のそれぞれの費用相場はおおよそ以下の通りです。
どの士業も、基本的には依頼すれば遺言書の作成から証人、遺言執行者の指定まで引き受けてくれます。
弁護士だけ料金が相対的に高い相場なのは、裁判などになった時に、代理人として法廷に立つことができる唯一の専門家という点で、予め係争性(揉め事)のある相談が多く、作成や検討に時間を要することが考慮されていると考えられます(最も弁護士の社会的地位の高さや平均所得の高さもあると考えられます)。
もちろん、遺言書が法的に誤りのないものであれば基本的に裁判は起こらないため、遺言内容が複雑だったり、どうしても揉め事を起こしそうな相続人がいたりしなければ、必ずしも遺言書の作成から弁護士に頼む必要はありません。しかし、揉めているような場合では、作成段階から弁護士に相談した方が良いと言えます。
6-3.専門家に遺言書の相談をした方がいい人
遺言書を書く目的は、あくまでも「死後に大切な人に相続争いをさせない」ことです。
すべての推定相続人に対してその立場に合わせた公平な相続をする旨の遺言内容であれば、公正証書でも自筆証書でも遺言書の作成は簡単ですし、実際に遺言が履行される段階においても、特に問題は起こらないでしょう。
しかし、以下のようなケースでは、専門家に遺言の内容そのものを相談し、作成や必要な事前手続きについて、サポートを受けた方が良いでしょう。
・相続するものが多い
・相続する相手が多い
・不動産以外に相続する金融資産が少ない
・どうしても相続させたくない相手がいる
・子どもがいなくて自分の兄弟とは疎遠である
これらは、遺言書がないと相続手続きが煩雑になったり、相続争いで裁判沙汰に発展することの多いケースです。
現状ですでに不安を抱えている方はもちろん、将来的にトラブルが発生するかもしれない不安が少しでもある方は、作成前に内容について専門家に相談しましょう。
大切な人を守る一度きりの遺言です。後悔がないよう、しっかり対策してください。
まとめ
今回は、初めて遺言書を作成する方に向けて、安全かつ法的に正しい遺言書について解説してきました。
遺言書の種類とそれぞれの特徴は、以下の通りです。
公正証書遺言書の作成は、以下の流れで行います。
自筆証書遺言書は、以下のように作成します。
法務局に預ける場合には、さらに以下の様式に従います。
遺言書の作成にあたり、注意すべきことは以下の通りです。
遺言書の作成によってできることとできないことは、以下の通りです。
遺言書の作成を専門家に依頼するメリットとデメリットは、以下の通りです。
この記事を参考に、あなたが自分に合った遺言書の作成方法を見つけ、大切な人を相続争いから守ることができますように。