「公正証書で遺言を遺すには、どうしたらいいのだろう」
「公正証書の遺言書って、どうやって作るのだろう」
公正証書で遺言を遺すことは、遺言者の死後の相続トラブルを防ぐのにもっとも有効な方法です。
改ざんや廃棄の心配がなく、作成過程で遺言のプロである公証人の確認が入るため、遺言の記載内容に法的な誤りがないと考えられるため、確かな遺言書としての効力があるからです。
そのため、特に以下の方には、自筆証書ではなく、公正証書での遺言書の作成をおすすめします。
・法的に正しく効力を発揮する遺言書を作成したい方
・遺言通りに速やかに相続手続き(遺産の承継)を進めて欲しい方
・残された家族間で無駄な遺産相続争いをさせたくない方
そこでこの記事では、公正証書で遺言を遺したい方のため、その効力や作り方の手順、書類や費用などの必要なものについて分かりやすく解説します。
この記事を読むことで、公正証書での遺言書の作成について理解し、あなたの死後、大切な家族を相続争いに巻き込まないようにする正しい公正証書遺言書の作成がわかります。
1.公正証書遺言書とは
公正証書遺言書とは、遺言者本人が公証人に口頭で遺言内容を伝え、それを元に公証人が作成し、内容について間違いがないことを証人に確認してもらう遺言書のことです。
公証役場に遺言者本人が出向くほか、公証人に自宅や病院、施設等に出張して来てもらう方法があります(但し、病床執務手当が発生します。)。
本人が自筆するわけではないため、正しく意思表示ができる状態であれば、公正証書遺言書を作成することができます(なお、口頭で意思表示できない場合における作成方法もあります)。
1-1.公正証書遺言書の特徴
公正証書遺言書は、遺言書の作成方法の中でもっともその内容に法的な誤りがなく、保管の安全性が高い方法と言えます。
なぜなら公証人と呼ばれる法律の専門家の関与の元で作成されるため、法律的な矛盾点やミスがなく、原本を公証役場で保管してくれるからです(ごく稀に人為的ミスによる無効事例はあるようです)。
内容の信憑性、保管の安全性がほかの作成方法より優れているため、遺言書の作成を考える人の多くが採用している作成方法です。
公証役場は全国におよそ300箇所あるため、足を運びやすい場所を選ぶことができます。
公証役場の場所を調べたい方は、日本公証人協会の公証役場一覧からお探しください。
1-2.公正証書遺言書の見つけ方
公正証書遺言書は、遺言者本人の死後に、公証役場の検索システムで発見することができます。
相続においては故人の遺志が尊重されることから、遺族はさまざまな場面で遺言書の有無を確認されます。
そのため、万が一公正証書遺言書を残していることを相続人が知らなくても、死後まずは公証役場で調べるというのが一般的な流れになります。
公証役場には、「遺言検索システム」というものがあり、遺族はこのシステムを使うことで、最寄りの公証役場で遺言書の存在有無を知ることができます。
公正証書遺言書であれば、本記事執筆現在において死亡届出に結び付いた相続人らへの通知システムはないものの、容易に調査が可能であり、証人(※作成時に2名立ち合い)がすでに亡くなっていたり、遺言書の存在を伝えていた家族が病気などで失念してしまったとしても、書いたものが無駄になる心配が少ないのです。
2.公正証書で遺言を遺すべき3つの理由
冒頭でもお伝えしましたが、公正証書遺言書は、遺言者の死後の相続トラブルを防ぐのにもっとも有効な方法です。
なぜなら、公正証書による遺言は、以下の3つの点を備えていることから、ほかの種類の遺言書よりも確実で安全だと言えるからです。
・法的な誤りがない
・改ざんや紛失の心配がなく、安全に保管できる
・死後すぐに相続手続きに入れる
それぞれ具体的にその理由を見ていきましょう。
2-1.公正証書で遺言を遺すべき理由①:法的な誤りがない
公正証書による遺言書は、公証人と呼ばれる法律の専門家が書きます。
遺言者本人が遺言したい内容を公証人に公証役場で伝え、その内容を元に公証人が作成するのです。
公証人とは、高度な法的知識と豊富な法律実務経験を有している法律の専門家(元検察官や元裁判官が多い)が、公募に応じたうえで法務大臣に任命されてなれるもの。
その公証人が、中立的な立場で、遺言の内容に矛盾や法的に無効な部分が生じないように遺言書を作成してくれるので、法的な誤りが制度上は起こり得ないのです(ごく稀に人為的ミスによる無効事例はあるようです)。
2-2.公正証書で遺言を遺すべき理由②:安全に保管できる
公正証書として作成した遺言書の原本は、公証役場に保管されます。
公証役場にある原本は、門外不出で秘密情報が保持されたうえ、厳格に管理されます。
万が一公証役場が自然災害などに見舞われ、役場ごと遺言書原本が紛失してしまっても、公証役場以外の場所で電子化されてデータベースに残しているため、謄本(写し)を請求することができるのです。
2-3.公正証書で遺言を遺すべき理由③:死後すぐに相続手続きに入れる
公正証書による遺言書は、遺言書の発見後に裁判所による「検認」の手続きが必要ありません。
裁判所での遺言書の検認とは、相続人全員に対して遺言の存在とその内容を知らせる一方で、検認の日時点での遺言書の状態(形状、追加修正等の状態、日付、署名)を証拠として保全するための手続です。偽造や改ざんを防ぐ狙いがあります。
裁判所での検認には、まずは相続人確定のため、被相続人(遺言者)の死亡から出生まで遡る除籍謄本等の収集を行う必要があり、申し立ての準備から検認期日まで含めて、おおよそ2~3ヶ月かかることも珍しくありません。
公正証書遺言書では、この検認自体が不必要なため、死後すぐに相続の手続きに移ることができるのです。
3.公正証書遺言書の作成手順
公正証書遺言書は、自分で書くものではなく、遺言の内容を公証人に伝えて書いてもらうものであるとお伝えしました。
実際に、どのような手順を踏んで公証人に作成してもらうものなのか、作成の具体的な流れについて、以下の流れを踏まえて見ていきましょう。
STEP1:相続財産の洗い出し
まずは遺言者自身の財産であり、相続対象となる財産の種類とその額をすべて洗い出します。
重複や漏れがないよう、ひとつひとつ紙に書き出していきます。パソコンが使える人は、「Excel」などの表計算ソフトを活用するとよいでしょう。
遺言書を書く目的のひとつとして、「大切な人を相続争いに巻き込ませない」というものがありますが、もしも遺言書に記載のない財産が出てきてしまうと、遺言書の効力が及ばず、その分をどのように相続するかについて、法定相続人の間で遺産分割協議を行う必要が出てきます。
そうした事態を避けるためにも、保有している財産はたとえ少額と思ったものでも、思い出せる限り書き出してください。
STEP2:だれに何をどれくらい遺すかを決める
保有している財産の種類と額がわかったら、それぞれの相続先と金額を決めます。
だれに:どの相続人または個人・団体等(法定相続人以外)に
何を:どの種類のどの財産を
どのくらい:どれくらいの割合や金額で
あまり複雑でない相続の場合には、この3点をしっかり整理しておけば、公証人に遺言書の作成をしてもらうことができます。
しかし、以下のようなケースでは、公証人に遺言書の作成を依頼する前に、行政書士や弁護士に相談をして、分割方法の検討や家庭裁判所などでの必要手続きを踏まえる必要があります。
・不動産以外に相続できる財産がない
・相続させたくない法定相続人がいる
詳しくは5.【注意】公正証書遺言書を作成する公証人に内容の相談はできないの項目でもお伝えしますが、公証人には基本的に「遺言者が決めたことを法律的な効力のある文書にしてもらう」ものであり、内容についての細かい相談や手続きの依頼はできないということを覚えておいてください。
これは、公証人制度は「高い中立性」が求められるためです。公証人が遺言者の意思決定に影響を及ぼす助言などはしてはならないこととされています。
STEP3:公証役場に作成の申し込みをする
公証役場に連絡をし、公正証書遺言書の作成をしたい旨を伝えます。最近では、メールでのやりとりも一般的となり、パソコンが使える人は、遺言書作成当日まで、一度も訪問せずに打ち合わせを行うことが可能です。
公証役場は公証人が執行する事務所のことで、全国に300ほどあります。以下の日本公証人連合会のページから自分の行きやすい場所を選んで、直接申し込みをしてください。管轄はありませんが、住所地の最寄りの公証役場を選ぶ方が多いです。
公証人との面談日を調整し、予約した日時に4.公正証書遺言書を作成するのに必要な書類を持って公証役場を訪問します。
なお、遺言者本人に健康上の事由がある場合は、病院や施設、自宅などに公証人に来てもらうこともできますので、直接公証役場へご相談ください。
STEP4:証人を2人依頼する
公正証書による遺言書の作成には、証人を2名立てる必要があります。
この証人には遺言者の意思を確認し、手続が公的な様式に則って行われたことを保証してもらいます。
依頼する証人は、以下のいずれかの方法で立てます。
①遺言者本人が証人になってくれる人を探して依頼する
②司法書士や弁護士などの法律の専門家に依頼する
③公証人役場で証人を準備してもらい依頼する ※公証役場によっては断られる場合があります。
いずれの方法で立てた証人でも、証人としての効果は変わりませんが、証人になることができない人もいるので、注意してください。
STEP5:公証人に遺言内容を伝える
STEP3:公証役場に作成の申し込みをするで予約した公証人との面談日に、遺言内容のメモを用意し、公証人に口頭で作成して欲しい内容を伝えます。メールでやり取りする場合は、メール本文又は内容をまとめたデータにて内容を伝えます。
遺言内容に法的な誤りや矛盾がないかここで確認をしてもらい、問題がなければその内容にしたがって遺言書の案を作成してもらいます。
STEP6:遺言書の案の確認と修正
遺言書の案ができると、遺言者本人にメールや郵送などで送られてきます。
内容を確認して、間違いや訂正したい箇所があれば修正を依頼します。
公証人が修正を反映し、遺言者本人によって遺言書案が確認されると、遺言書の作成日時を取り決めます。
この遺言書案の確定及び財産評価額に係る資料の提供によって、公証人手数料の金額が決まります。
作成した遺言書原本は公証役場に保管されますが、作成後の保管については無料で行われます。
STEP7:公正証書遺言書の作成当日
事前に決定した公正証書遺言書の案とその修正を反映し、公正証書遺言書の作成をします。
この作成には遺言内容を口頭で伝えた日から1~2週間ほどかかるもので、実際にどれくらいかかるかはそれぞれの公証役場の混雑状況によります。
遺言書作成当日は、事前に決めておいた証人2名が同席します。原則として全員が身分証明書(運転免許証等)の確認をされるため、忘れないように持参してもらってください。
証人の前で、遺言者本人が遺言内容の意思を改めて口頭で伝え、公証人の読み上げる遺言書と内容に相違がないかを遺言者本人および証人2名が確認をします。
遺言書本人・証人2名・公証人の計4名の署名捺印によって、晴れて公正証書遺言書の作成が完了します。
作成した遺言書の原本は公証役場で保管され、遺言者本人には正本と謄本が渡されます。
4.公正証書遺言書を作成するのに必要な書類
公正証書遺言書を作成するにあたり、公証人との最初の面会の日までに用意しておくべき書類は、以下のものです。
人によって、また所有財産の種類によって集める書類の数や手間が異なるので、できるだけ余裕を持って準備するようにしてください。
5.【重要】公正証書遺言書を作成する公証人に内容の相談はできない
これまでにも何度かお伝えしてきていますが、公証役場の公証人に、遺言書の内容そのものについての相談はできません。
公証人に相談できる内容は「法律上無効になる/ならない」といった事項までなので、その先の解決策について一緒に考えたり、法律上の必要な手続きを一緒にしてくれるものではありません。
法定相続人以外の人に相続をしたい方や、どうしても相続させたくない相手がいる方など、相続について個別で心配なことがある場合には、法律の専門家に遺言の内容そのものについて相談し、必要な対策をしてから公証役場を訪れる必要があります。
特に以下の方は、遺言書を書く際だけでなく遺言が執行される際にも専門家の助けが必要になることがあるため、確実に遺言の通りに進めて欲しい場合には、遺言書に詳しい行政書士や弁護士などの専門家を頼りましょう。
上記のケースは、相続で揉めることの多いものです。
特に一般的なのが、遺言者本人が所有して自ら居住している土地建物があるものの、金融資産が少なく、残される家族が配偶者や子どもなど複数いる場合です。
その場合、遺言者本人が考えて事前に判断しておくべきことはいくつもあります。
・土地建物を売却するか否か
・配偶者は土地建物に住み続けることができるか否か
・金融資産は遺留分を補えるか否か
配偶者が住まいを失わないよう、配偶者居住権の制度も考慮しながら、相続人それぞれの遺留分(兄弟姉妹を除く)を可能な限り侵害しない(※侵害しても向こうではありませんが、トラブルになりやすくなります)ように、遺言書の作成前に手続きしておく必要があるものもあります。
こうした資産の分割方法や必要な手続き、相続争いの回避方法については、遺言書の作成実績のある専門家の意見を仰ぐのが得策です。
6.公正証書遺言書にかかる費用
公正証書遺言書の作成には、費用(公証人手数料)がかかります。
内容があまり複雑でなく、相続人の権利にきちんと配慮や事前対応が個人でできている内容であれば、公証人への遺言書作成手数料だけで済みます。
しかし、人間関係が複雑であったり、相続するものや相手が多いといったケースでは、公証人に作成を依頼する前の段階で、専門家に内容の相談をしておきます。その場合は、公証人手数料のほかに、原則として専門家報酬も必要となります。
それぞれのケースでかかる費用について、詳しく見ていきましょう。
6-1.公証人への手数料
STEP6:遺言書の案の確認と修正の項目でもお伝えしましたが、遺言書の案に修正を加え、その内容が確定すると、作成手数料の金額が決まります。
手数料は相続させる相手ごとに、以下の表に当てはめた合算金額で請求されます。ただし、手数料令19条にて、「遺言加算」という特別の手数料を定めており、1通の遺言公正証書における目的価額の合計額が1億円までの場合は、1万1000円を加算すると規定されていますので、最低でも1万6千円はかかります。
注意したいのは、上記の手数料は遺産の総額に対してではなく、「相手ごとの額」に対して発生するということです。
例を取って分かりやすく説明しましょう。
相続する資産の総額が同じでも、分割して受け取る相手ごとに手数料が発生するため、相続する相手が多いほど手数料は多くかかってきます。
「だれに・何を・どれくらい」という遺言書の内容が決まってからでないと手数料が確定しないのは、このためなのです。
6-2.専門家への報酬
遺言書の内容について相談したり、必要な手続きの代行や遺言書の作成そのものを依頼することのできる専門家について、それぞれの費用相場を以下にまとめました。
遺言制度に詳しい行政書士や弁護士であれば、依頼すれば公正証書遺言書の作成支援から証人としての立ち合い、遺言執行者の指定の予諾まで引き受けてくれます。
まとめ
今回は、公正証書で遺言を残す方法についてわかりやすくお伝えしました。
公正証書遺言書は、いくつかある遺言書の作成方法の中で、もっとも確実で安全な方法であることをお伝えしました。
公正証書遺言書の作成の流れは、以下の通りです。
公証人に遺言内容を伝える日に、持参するべき必要書類は以下の一覧の通りです。
公証人に支払う作成手数料は、遺産の総額に対してではなく、「相手ごとの額」に対して発生するということに注意しておいてください(遺言加算11,000円にもご留意ください)。
この記事を参考に、あなたが公正証書遺言書の作成をスムーズに行い、家族に大きな安心を残すことができますように。