最終更新日:2024年4月8日(月)
文責:行政書士 野村 篤司
「遺言執行者」の権利義務等について
このページでは、前述の「遺言執行者」についてもう少し詳しく説明していきます。
遺言執行者は必ず選任しないといけない場合は?
遺言の執行は、原則として相続人や受遺者自身が行うことができ、必ずしも遺言執行者を選任しなくてはならないわけではございません。しかし民法では、例外的に次の場合には遺言執行者の選任が「必要」とされています。
①子を認知する場合(民法第781条2項、戸籍法第64条)
②相続人の廃除・その取り消し(民法第893条、894條)
いずれも、相続実務ではあまり見かけることがありませんが、これらの場合には「遺言執行者」が必ず登場します。なお、たまに「遺言執行人」とおっしゃる人が見受けられますが、これは正確な表現ではございません。「遺言執行人」ではなく、「遺言執行者」が民法上の正確な表現となります。
遺言執行者はだれを指定してもよい?
民法上は、「未成年者及び破産者は、遺言執行者となることができない。」と定められています(民法第1009条)。つまり、自己の財産を相続させたい(又は遺贈したい)相手であっても、未成年者や破産者でなければ、遺言執行者として指定することが可能です。なお、遺言者が、遺言執行者として特定の人物を指定したとしても、指定を受けた遺言執行者が遺言執行者の職につくことを承諾しない(拒否する)こともできます(第1007条の反対解釈)。
また、遺言執行者が、遺言の効力発生時(遺言者の死亡時)において、判断能力を有しているとは限りません。その他さまざまな事情に備え、確実に執行させたい場合は、遺言執行者について、「二次的な遺言執行者」を定めておくとよいでしょう。
なお、「遺言執行」は専門性も高く、責任も重大です。可能であれば、親族に頼むのではなく、行政書士や司法書士、弁護士などの専門家に依頼することを推奨します。また、これらの専門家に比べて「信託銀行」が執行者になるケースでは、専門家が就任する場合に比べて執行報酬も格段に高くなることが一般的なようです。費用を削減する意味でも、信託銀行ではなく、経験豊富な専門家に依頼することを推奨しています。
※遺言執行報酬として相続人が遺言執行者に高額な費用を請求されるという消費トラブルに発展するケースがあります。相続人と依頼した専門家の間でトラブルにならないように、「遺言執行者の報酬について」を遺言書の中で明記するようにするとよいでしょう(第1018条参考)。
遺言執行者の権限(遺言執行者の権利)は?
民法では、『遺言執行者は、遺言の内容を実現するため、相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有する。』と定められています(民法第1012条第1項)。
従いまして、たとえ遺言書の中に、遺言執行者としての権限の記載がなかったとしても(※但し、公正証書遺言作成の実務では、遺言執行者の権利として明記することが通常です。)遺言執行(遺言内容の実現)のために必要な行為であれば、法律上当然に行うことができます。
法律(民法)で定められているわけですから、相続人から遺言執行者に対して「委任状」を交付する必要はない、ということにもなります。
しかし、相続手続き実務においては、遺言書の中で遺言執行者の指定があるという事実だけ(遺言執行者としての権限の記載なし)では、相続手続き実務上難しいものが2つあります(後述)。
遺言執行者に指定され、就任したらまず最初にやること(遺言執行者の義務)
指定されていたとしても、就職しないことができる
まず大前提として、遺言執行者に指定されていたとしても、「就職を拒否」することが権利として認められています。遺言執行者の指定の際に、遺言執行者の同意なども必要とされていないことから、就職を拒否するにあたり、特段の理由も必要とされていません(条文上、正当な理由などが必要とされていません)。そのため、「遺言執行者になりたくない」という場合は、そもそも「就職を拒否」するようにしましょう。
なお、「一度就職を承諾した後で辞任する場合」は、正当な理由があり、かつ家庭裁判所の許可が必要となります(民法第1019条)が、このことと「就職の拒否」を混同しないように注意して下さい。
遺言執行者への就職を承諾したら、具体的に何をすればいい?
それでは、遺言執行者になった場合、具体的に何を行えばよいのでしょうか。
民法では、「遺言執行者が就職を承諾したときは、直ちその職務を行わなければならない。」(第1007条第1項)と規定されており、「遺言執行者は、その任務を開始したときは、遅滞なく、遺言の内容を相続人に通知しなければならない。」と規定されています(同条第2項)。
さらに、「遺言執行者は、遅滞なく、相続財産の目録を作成して、相続人に交付しなければならない。」(第1011条第1項)と定められています。
つまり、具体的には、次の仕事を行う義務があります。
①遺言執行者に就任するかどうかを決める →「就任(就職)通知書」を作成
②(通知の前提として)相続人を漏らさず調べるために、「戸籍等の収集(相続人の確定)」を行う
③財産調査を行い、「執行対象財産目録」の作成を行う
④上記①②③が完了次第、相続人全員へ「交付」する
【注意】受任者としての義務が準用されています(第1012条第3項)!
上記の「相続財産目録交付義務」以外にも、民法第1012条第3項において、下記の条文が準用されています。※「受任者」とされている部分を「遺言執行者」として置き換えましたので、条文の原文とは異なっています。ご注意ください。
第644条(受任者の注意義務)の準用
遺言執行者は、委任の本旨に従い、善良な管理者の注意をもって、委任事務を処理する義務を負う。
第645条(受任者による報告)の準用
遺言執行者は、委任者の請求があるときは、いつでも委任事務の処理の状況を報告し、委任が終了した後は、遅滞なくその経過及び経過を報告しなければならない。
第646条(受任者による受取物の引き渡し等)の準用
1.遺言執行者は、委任事務を処理するに当たって受け取った金銭その他の物を委任者に引き渡さなければならない。その収取した果実についても同様とする。
2.遺言執行者は、委任者のために自己の名で取得した権利を委任者に移転しなければならない。
第647条(受任者の金銭の消費についての責任)の準用
遺言執行者は、委任者に引き渡すべき金額ま又はその利益のために用いるべき金額を自己のために消費したときは、その消費した日以後の利息を支払わなければならない。この場合において、なお損害があるときは、その賠償の責任を負う。
第650条(受任者による費用等の償還請求等)の準用
1.遺言執行者は、委任事務を処理するのに必要と認められる費用を支出したときは、委任者に対し、その費用及び支出の日以後におけるその利息の償還を請求することができる。
2.遺言執行者は、委任事務を処理するのに必要と認められる債務を負担したときは、委任者に対し、自己に代わってその弁済をすることを請求することができる。この場合において、その債務が弁済期にないときは、委任者に対し、相当の担保を供させることができる。
3.遺言執行者は、委任事務を処理するため自己に過失なく損害を受けたときは、委任者に対し、その賠償を請求することができる。
【関連記事】
・どの種類で遺言書を作成する?~遺言書の種類(方式)の解説~
・比較表でバッチリ!「自筆証書遺言」と「公正証書遺言」の違いまとめ
・鉛筆書きは要注意!Wordもダメ!~自筆証書遺言の紙とペンについて~
・責任重大!遺言執行者の権利義務とは?就任したらまず何をする?
・未成年者、認知症患者、字が書けない人…遺言作成できる?作成できない?
・専門家が教える!「遺言書」を作成する際に気を付けるべき5つのポイント
・遺言書の作成で最も大切なこと ~ 「付言」なくして「遺言」なし ~