【身元引受人とは?】高齢者施設への入所説明を聞いてみると…
今回は、「高齢者施設」に入所する際の「身元引受人(みもとひきうけにん)」についてのお話です。 「高齢者施設」と一口にいっても、公的な施設である『特別養護老人ホーム』(通称:特養(とくよう))や『ケアハウス』、主に民間会社が運営する『有料老人ホーム』、高齢者の居住の安定確保に関する法律(高齢者住まい法)を根拠として都道府県等に登録された『サービス付き高齢者住宅(通称:サ高住(さこうじゅ))』など様々あります。
これらの施設に対する入所説明を受けた方であればご存知かもしれませんが、たいていの場合「身元引受人を立ててください」と要求されることがあります。「身元引き受けをお願いできる親族や知人がいない。このままでは入所できない。」というお困りの方からご相談を頂くことがございます。今回は、この「身元引受人」と「成年後見人」についてのご紹介になります。
※高齢者施設の比較や分類については、下記の厚生労働省発行のパンフレットをご参照ください。
「身元引受人」がいないと高齢者施設に入居できない?!
前述の通り、(法律上の明確な根拠はないものの)これらの「高齢者施設」へ入所する際に、施設側から、入居契約書への『身元引受人』の署名を求められるのが一般的となっています。
この「身元引受人」については、運営する施設と入居者希望者との間で締結する「入居契約書」において『身元引受人の権利義務』という項目が規定されています。入居契約については、高齢者施設に問い合わせをすれば確認させてもらうことができますが、契約内容を確認をしますと、ほとんどの場合は、身元引受人とは、『連帯して債務を負う者』となっています(※運営会社により異なることがあります)。
法律的に難しく言い換えれば、「連帯債務者(れんたいさいむしゃ)」又は「連帯保証人(れんたいほしょうにん)」という解釈になるわけですが、要するに、高齢者施設側としては「施設に対する家賃等の費用については、入居者だけではなく、一緒に責任もって払ってね、なにかあったらその時はすぐに来て下さいね」といった要望に応えてくれる人を求めているわけです。
施設の立場を考えると、「身元引受人」を予め決めといて欲しいという気持ちもわからないでもないのですが、「身寄りがいない(又は身寄りがいても頼ることができない)」場合には、しばしば入居できずに問題になり得ます(対策については後半に記載)。
「身元引受人」と「成年後見人」の違いは?
この「身元引受人」がいないようなケースでは、高齢者施設では『後見人が付いていれば、身元引受人がいなくても良い』という取り扱いをしているところがあります。この「後見人」と「身元引受人」の違いについては、次の通りです。
【身元引受人】
①法律上の規定はない。
②入居希望者が自ら選定する。
③法律上の財産管理権はない。
④入居契約において緊急時の対応や死亡後の残置物撤去義務が定められている。
など
【成年後見人】
①民法において定められた法律上の制度である。
②(後見開始の審判の申立てに基づき)家庭裁判所が選任を行う。
③法律上の財産管理権が与えられ、「法定代理人」となる。
④死亡と同時に後見は終了するため、厳密には死亡後の諸手続きはできない。
以上の点が大きく異なります。
「成年後見人」が「身元引受人」になれる?
前述の通り、施設の運営会社によって「身元引受人」の役割(定義、権利義務)が多少異なるものの、ほとんどの場合は「連帯債務者」又は「連帯保証人」になるわけですが、身寄り がいなくても、成年後見人が付いている場合(すなわち、入居者に判断能力がない状態)に、成年後見人が身元引受人になれるのか、という実務上の問題が生じ ることがあります。
結論から言えば、成年後見人は、身元引受人(成年被後見人の連帯債務者又は連帯保証人)にはなれません。
なぜならば、成年後見人は、入居希望者(成年被後見人)の財産を管理する代理権を有する「法定代理人」であるところ、本人と一緒に債務を負担するとすれば、 「利益が相反してしまうから」であると考えられます。また、本人の債務を連帯して負わなければならないとする規定もなく、成年後見制度自体がその役割を期 待しているわけでもなく、明らかな「職務権限外」にもなります。
「身元引受人」がいない場合はどうすればいいの?!
上記の通り、成年後見人がいたとしても、身元引受人になってもらうことはできません(きちんと勉強された専門職後見人であれば、いくらお願いしても身元引受人になってはくれません)。
現状の対応としては、次の3点になります。
方法①:運営施設側に理解してもらい、なんとか身元引受人を立てずに入所させてもらう方法(粘り強く交渉又は任意後見契約等を活用して代替措置として交渉)
方法②:そもそも身元引受人を必要としない施設を探す。
方法③:元気なうちに民間会社などに身元引受人をお願いする。
なお、方法③については少し注意が必要で す。ある弁護士法人や民間会社、公益社団法人やNPO法人などが「身元引受サービス」を提供しておりますが、料金が高額であったり、対応が不十分であったり、また、法的にはまだまだルールが定められておらず、民法における「契約自由の原則」に委ねられている側面があります。結局のところ、一番推奨したい解決方法はといえば、判断能力が十分なうちでも利用のできる「任意後見制度」を活用し、任意後見受任者をもって、身元引受人を不要としてもらえないかを施設側に交渉するのが最善の方法ではないかと考えます。
行政書士法人エベレストでは、高齢者の生活支援の一環として、有料老人ホーム等のご紹介や体験入居時の説明に同行するサービスも提供しています。また、任意後見人として受任することも承っており、なんらかの解決方法が提供できる可能性があります。